今話題沸騰中のクリストファー・ノーラン監督の作品「TENET(テネット)」。実はこの作品、エストニアでロケが敢行され、劇中にもタリンの様々なスポットが登場します。今回はそんな中でも、映画のクライマックスの一つ「高速道路でのカーチェイスシーン」に焦点を当て、登場人物ごとに順行視点・逆行視点から紐解いていきたいと思います。
まとめ
細かいことは良いからさっさと答えを教えてくれ!というせっかちな方はこちらの画像をご参照ください。全てのキャラクターの動きがシーンごとに描写されています。「情報量が多すぎてこれを読んでも分からない」という方、ご安心ください。これからキャラクター毎の動きを解説していきたいと思います。
TENETの世界観 4つのポイント
さて、TENETは順行・逆行が入り乱れる複雑な設定のもと、ストーリーが構築されています。解説に入る前に4つのポイントに分けて説明していきましょう。
順行世界からみた逆行世界の見え方
順行世界では、順行の自分から、逆行世界の相手を見ると、逆に動いているように見えます。
また、逆行世界の自分から、順行している相手を見ると、同じく逆に動いているように見えます。
一方で、逆行している自分から、逆行している相手を見ると、同じように動いているように見えます。
カーチェイスのシーンでは、前半の順行視点と、後半の逆行視点があり、動きがこんがらがってしまうことがありますが、この法則さえ忘れていなければ、混乱は最小限で済むのではないでしょうか。
逆行とタイムトラベルの違い
逆行はタイムトラベルのように瞬時に行えるものでなく、時間をかけて戻ることが必要です。例えば30歳の人が0歳の時に戻るためには、30年かけて逆行をすることが必要です。また、逆行していても歳はとるので、30歳の人が0歳の時の世界に戻るときには60歳になっています。
逆行して順行すると、同時に3人の自分が存在する
一回の逆行につき、①オリジナルの自分 ②逆行する自分 が現れます。そして再度順行すると、③更にそこから順行する自分 が現れます。つまり、逆行をしても、過去の自分と同じ時間軸に生きることは可能です、ただし、「逆行中に自分に触れてしまうと対消滅してしまう」と研究者・バーバラが作中で語っています。
決定論的な世界
基本的にいま起こっている事象は、逆行中の人、そして逆行から順行に戻った人が行ったこと全てを踏まえて構成されます。ニールも「起きてしまったことは仕方がない」と口癖のように言っていますね。
では、ここからはまずは劇中でどのようにカーチェイスシーンが描かれていたのか、振り返ってみましょう。
本記事で掲載されている劇中の様子は、TENETのトレイラー映像から引用しています。全ての著作権はWarner Bros – ワーナー・ブラザースに帰属します。
劇中での描かれ方
カーチェイスシーンまでのあらすじ
悪役・セイターに接触することに成功した主人公(Protagonist)。ウクライナ政府が保管するプルトニウム241が、ウクライナからトリエステの長期保管施設に輸送されることを知り、その経由地であるエストニア・タリンで共同して奪うことを提案する。無論、主人公はセイターの手に渡すつもりなどなく、セイターの目を盗んでプルトニウム241を奪う目論見だったのだが…。
プルトニウム奪取〜回転扉まで
高速道路の入り口で、連携プレーによって重機4台を使って輸送車を取り囲み、プルトニウム241を奪うことに成功した主人公。車を走らせていると、前方から猛スピードのAUDIがバックで走ってきます。
それを確認するサイドミラーは既に割れています。AUDIとはすれ違いざまに衝突するとサイドミラーの傷は消え、反転したAUDIがバックで主人公の乗るBMWを追いかけてきます。
そのさなか、ひっくり返っている状態から、いきなり後ろ向きに走り出す車両(SAAB)を目撃し、慌ててハンドルを切るニール。そして逆走するAUDIが横に並ぶと、窓にはセイターとキャットの姿が映ります。
「3,2,1」とカウントダウンをするセイターに対して慌てた主人公は、ニールの制止を聞かずに、プルトニウム241が入ったオレンジ色の箱を手渡してしまいます。(しかし主人公が投げたのは箱だけ。肝心の中身は、箱を投げた直後に、2台の間に割って入ったSAABの中に投げ込んだのでした。)
その後、セイターと運転手は逆走するAUDIから、順行で走るベンツへ。猛スピードで逆走するAUDIに拘束された状態で取り残されたキャットは、信号待ちの車両に追突しそうになります。それを阻止するために、主人公はBMWからAUDIに乗り換え、ギリギリブレーキを押すことに成功。
しかし、その直後にセイターの部下に取り囲まれてしまいます。ニールは応戦して応援部隊を呼びますが、別の部隊がいることを知らない主人公に不審がられてしまいます。その直後にセイターの部下に囚えられ、主人公、ニール、キャットは港の倉庫まで連行されてしまいます。
そこで目にしたのは、キャットを銃を突きつけるセイターの姿。しかし彼が喋っている言葉は逆行しており、言葉が遅れて聞こえてくるため会話が噛み合いません。プルトニウムの場所を主人公に問うセイターは、キャットの腹部を逆行銃で一撃。観念して「BMWのダッシュボードにある」と告げる主人公ですが、その直後、別のセイターが出現して、順行語で場所を聞いてきます。「いま言ったばかりだ(I told you)」と主人公が言い返した直後、味方部隊(TENET)が突入。セイターは回転扉の奥に消えてしまいます。
その後、作戦が全て筒抜けだったこと、そして応援部隊の存在を明かしていなかったニールに不信感を表す主人公。味方の誰かが作戦をバラしたのではないか、と勘ぐる主人公に、TENET部隊のリーダー・アイブスは「挟み撃ち作戦だ」と告げます。つまり、順行のセイターと逆行のセイターが連絡を取っており、主人公の動きを把握していたというのです。
その頃セイターに撃たれたキャットはTENETの医療班に手当を受けますが、重症でもってあと3時間の命だと告げられてしまいます。意を決した主人公は、回転扉を通って時間を逆行することを決意。検証窓に逆行する自分が見えたことを確認し、TENETのメンバーと共に初めて逆行の世界へ突入します。
回転扉〜逆行〜横転・炎上まで
逆行世界に入った主人公は、窓越しに回転扉から後ろ向きに出てくる自分(ついさっきの順行世界の自分)を目にします。そして、「自分は外に出て、キャットが撃たれないように過去を変えてくる」とニールに告げる主人公。ニールから「起きてしまったことは仕方がない」と告げられますが、主人公は信じようとしません。
同じくTENETの部隊のリーダーであるホイーラーから、逆行世界のインストラクションを受けた主人公は、受信機をニールから受け取り、主人公は外の世界に飛び出します。
外にでた主人公は、カモメが逆行して飛行し、汽笛が逆再生され、荒れた水たまりの水面が踏む瞬間にきれいになる不思議な減少を目撃します。そして、SAABに乗り込み、アイブスに「無謀だ」と言われた車の運転に挑戦。(この車に乗り込むときに、後部座席に目を向けており、おそらくプルトニウムの存在を認識していると思われます。)
主人公はニールから受け取ったGPS受信機を頼りに、プルトニウムの箱をめがけて運転し、空の容器に盗聴用の発信機をつけます。その頃、逆行セイターは、主人公たちを連行した時点まで逆行し、BMWのダッシュボードを調べますが、プルトニウムは見つかりません。ここで主人公の嘘に気付きます。
その後、セイターの乗る車(ベンツ)に箱が吸収されるのを目にした主人公は、セイターを追いかけます。セイターは、走行中のベンツ(逆行世界ではバック)からAudi(逆行世界では前進)に乗り込み、キャットを人質に取ります。発信機から聞こえてくるセイターの音声を聞いた主人公は、セイターが主人公のついた嘘に気づいたことを知ります。
高速で走るAUDIと順行主人公が運転するBMWに追いつく主人公ですが、後部座席でいきなりカタカタと物音がし、その直後プルトニウム241が主人公の車(BMW)に吸い戻されていきます(順行世界ではBMWからSAABに投げ入れられた)。その直後、セイターはプルトニウムのケースを主人公に投げ返します(順行世界では順行主人が逆行セイターに向かって投げる)。
順行世界のタイムラインでは
①順行主人公がケースからプルトニウムを取り出す
②順行主人公が、逆行セイター(Audi)に向かってケースを投げる
③順行主人公が逆行主人公の車(SAAB)に向かってプルトニウムを投げる
という順番でイベントが展開されます。
無論、順行世界の主人公は、このときのプルトニウムを投げ込んだSAABの運転手が、逆行世界の自分ということに気づいていません。
そして、セイターは逆行主人公が運転するSAABを横転させた後、指を1から3に”カウントアップ”し、順行世界の主人公から逃れようとします。
セイターは反転して横転するSAABにのもとに戻る際、順行主人公のBMWと衝突し、サイドミラーを破損させます。その後、セイターは横転するSAABにガソリンに火をつけ、主人公を”凍死”させようとします。火が付いたSAABの車内は温度が急低下し、ガラスに霜がついている描写がされていますね。
さて、ここからは登場人物別の視点でこのシーンを紐解いていきたいと思います。
主人公視点
本シーンでも、一番登場数が多い主人公。
順行世界で輸送車からプルトニウムを回収した後にBMWに戻った彼は、逆行するAUDIに追いつかれると、キャットを人質に取るセイターからカウントダウンで脅され、やむなくプルトニウム241をセイターに向かって投げます。しかし、ここで主人公は秘密裏にプルトニウム241本体を、猛スピードでバック走行するSAABに投げ入れます。
プルトニウムを手に入れたセイターは、キャットを拘束した状態でAUDIからベンツへと乗り移って逃げてしまいます。主人公は暴走するAUDIにBMWから乗り移って、交差点ギリギリのところで停車することに成功します。しかしその直後、セイターの部下に銃撃され、主人公は倉庫に拘束・連行されてしまうのでした。
倉庫では、セイターから尋問を受けますが、「BMWのダッシュボードにある」とニセの在り処を伝えます。その後、TENETの応援部隊が突入すると、撃たれたキャットを救出するために味方の応援部隊と共に回転扉へ。セイターにキャットを撃たせないためにも、外に出て過去を変えようとします。
上述した通り、TENETの世界は決定論的世界です。ニールも「起こったことは仕方がない」と止められている通り、キャットを撃たれた過去を変えることはできません。
逆行世界では、SAABに乗ってセイターとカーチェイスを繰り広げますが、その最中に後部座席からプルトニウムがBMWに向かって吸い寄せられてしまいます。そう、順行世界の自分がプルトニウムを投げ入れた車は、実は逆行主人公が運転するSAABだったのです。
最後はセイターの乗るAUDIに攻撃され、横転。セイターの手によって爆破されてしまいます。
キャット視点
実は、このシーンでのキャットの動きはシンプルで、基本的に順行です。それを象徴するのが、彼女の来ているワンピースの色”赤”ですね。劇中最後のシーンで、レッドチーム(順行)とブルーチーム(逆行)に別れて挟み撃ちをしたように、この作品では一貫して順行の動きを赤で表現しています。
さて、冒頭でセイターに銃を突きつけて殺そうとするも、失敗に終わり、全力キックを喰らってしまうキャット。その後は、一環して逆行世界のセイターと時間を共にします。
AUDIに乗せられて拘束されたキャットは、走行中、横転して炎上する車の火を消すセイター(逆行世界では、横転した車に対して火をつける)を目撃します。そして超高速で後ろ向きに走る車の中(酔いそう…)でセイターに銃を突きつけられ、カウントダウンをされます。
そこからは割と描かれている通りなのですが、プルトニウムの箱をゲットしたセイターがベンツ(順行)に乗り移る形でキャットを放置し、暴走する車を主人公がギリギリで止める、という流れです。
その後、セイターに連れられて港の倉庫の中に連れて行かれる彼女ですが、逆行セイターに部屋の中に入る際にマスクをつけられています。これはブルールームの中に充満している空気が逆行世界の空気であるため、呼吸がうまくできないためです。そして順行音声と逆行音声が行き交う中、逆行音声をしゃべる逆行セイターに意味も分からないまま腹部を撃たれてしまいます。
TENETの応援部隊が突入すると、セイターは回転扉の中に消えていき、応援にかけつけたTENET部隊の治療を受けることがようやくできます。ただし、悪化する状態を危惧した主人公らによって、回転ドアを通って逆行世界へ行くことに。その後はおそらくニールが看病しており、コンテナによってオスロのフリーポートまで移送されています。
ニールの視点
ニールは主人公とキャットの動きを理解していれば、基本的に特筆すべきことはありません。
BMWを運転して、プルトニウムを奪取した主人公を消防車から再度BMWに乗せたニールは、逆走するAUDIとのカーチェイスを繰り広げます。その後、暴走する車を止めるために主人公がAUDI乗り移ろうとする際には、微妙なスピード調整で主人公をアシスト。Audiが停車するタイミングで同じく停車します。
銃撃戦を展開する中で応援部隊を呼びますが、別の部隊がいることを伝えてない主人公には不審がられてしまいます。ニールはその直前でも、プルトニウムを渡そうとする主人公を静止して「いや、もっとまずい」と発言するなどしており、主人公より深いレベルで物事を理解していることを仄めかしていますね。
そしてセイターの手下によって連行されてしまうニールでしたが、セイターがキャットを撃った直後に味方のTENET部隊が突入。無事開放されると、その後はキャットと一緒に逆行世界に突入し、キャットの手当をします。
セイターの視点
さて、この一連のシーンでもセイターが多く登場するのですが、基本的にセイターは逆行世界にいると考えていただけると楽かもしれません。
まず、自分を撃とうとするキャットを蹴り払った順行セイターは、部下に逐一報告することを命じて、レッドルームの陰へ身を潜めます。その後、逆行する自分にキャットを引き渡すと、そのまま主人公たちが連行されるまで待機しており、特に大きな動きをしません。
主人公が連行されてからも、尋問をせず陰に隠れていますが、痺れを切らして出現。「プルトニウムはどこにある!?」と順行主人公を問い詰めますが、主人公に「いま言ったばかりだろう」と不思議がられてしまいます。その直後にTENETの部隊が突入してきたため、回転扉へと逃げ込むセイター。この時点ではプルトニウムの場所は知らないので、再度逆行世界から問い詰めようとすると、主人公が「BMWのダッシュボードの中にある」と白状します。
その後、セイターはキャットの頭、そして腹部の順番に銃を突きつけて、ついには腹部に銃弾を撃ちます。逆行世界で銃を撃ったため、逆行世界の未来(順行世界の過去)のキャットは撃たれる前という状態になり、つまり撃った瞬間に傷が治ることになります。
逆行視点では、主人公は会話の冒頭で主人公からプルトニウム241の場所を聞いていますが、それでもセイターはキャットを撃っています。これは仮説ですが、逆行世界と順行世界の会話は噛み合わないため、セイターはダッシュボードに何があるのかその時点では理解できず、その後会話を進める中で文脈を理解できたのではないでしょうか。
また、逆行した直後、既に撃たれたキャットが目の前にいるため、因果と結果の辻褄を合わせる(キャットを撃たれる前の姿に戻す)ためにも、セイターは撃つという行為をしたのかもしれませんね。
さて、その後セイターは主人公が白状した通りにBMWに直行するわけですが、ダッシュボードの中にプルトニウムはなく、主人公の嘘に気付きます。主人公を脅す必要があると考えたセイターは、AUDIの中に拘束してあったキャットを人質に取り、主人公から直接プルトニウムを奪おうと考えるわけです。
そして順行するベンツ(セイターから見たら後ろ向きに走る)に乗り込み、主人公によって発信機がつけられたプルトニウムの箱を回収した後、逆行するAudi(逆行視点では前進)に乗り込みます。このとき、マスクをつけた部下の運転手も一緒に乗り込んでいます。
そしてセイターは空の箱を主人公に投げ返します。その際にSAABを運転している逆行主人公の姿を目にしており、その後に無線で部下に指示を出しています。作中では描写されていませんが、主人公が逆行主人公の車にプルトニウムを投げ込んだのではないか?と推察し、味方の順行部隊にSAABの中を確認するように指示を出したのだと思います。
そして、逆行主人公が運転するSAABを横転させた後、セイターは指を1から3に”カウントアップ”し、順行世界の主人公から逃れようとします。しばらくしてから反転して横転するSAABに向かう際、主人公の車と軽く衝突、サイドミラーを破損させます。その後、SAABの横転現場に戻ってきた逆行セイターは、SAABにガソリンに火をつけ、主人公を”凍死”させようとします。火が付いたSAABの車内は温度が急低下し、ガラスに霜がついている描写がされていますね。
さて、ここまでが主要4人物の動きです。なかなか複雑な描写がされていますが、主人公とセイターの動きを抑えておくと、理解が進むかと思います。さて、次は視点を変えて各車両の動きを解説していきたいと思います。
登場する車両
このカーチェイスで登場する車は主に4台。各車両の動きは、以下の表を見ていただくとご理解いただけるかと思います。
BMW(順行/主人公+ニール)
主人公とニールが乗っている黒の塗装がされている車です。ニールが運転しており、順行の方向で運転されます。最終的にはAUDIに合わせる形で停車しています。
SAAB(逆行/主人公)
逆行世界の主人公が運転するスウェーデン製の車です。逆行世界では港から高速道路に行き、終いには横転・炎上させられてしまう可哀想な車です。
AUDI(逆行/セイター+キャット)
逆行世界の部下によって運転され、セイターがキャットを人質に取っていた車です。順行ベンツから乗り込んできた逆行運転手によって運転されているため、順行世界では後ろ向きに走っているように見えます。
ベンツ(順行/セイター+ボルコフ)
順行視点では、セイターがオレンジの箱を受け取った後に乗り移る順行の車です。その後、ベンツからプルトニウムの空箱を投げ捨てるシーンが逆行主人公によって目撃されています。(逆行視点では、空箱が車の中に吸い寄せられる描写)
まとめ
さて、冒頭にも掲載しましたが、ここまでのストーリー、各登場人物の動きをまとめたのが以下の表です。じっくり見ていただければご理解いただけるかと思います。
考察
結局プルトニウムはどこにあるのか
このカーチェイスのシーンでは、主人公が一度はウクライナ政府から奪ったプルトニウム241を、セイターに横取りされてしまいます。しかしセイターがプルトニウムを直接奪った描写はされていません。ではこのプルトニウム、最終的にはどうやってセイターの手に渡ったのでしょうか?図にまとめてみました。
主人公は輸送者からプルトニウムを強奪した後、逆行主人公が運転するSAABの後部座席に投げ入れます。そのSAABは、逆行視点ではその後横転・炎上をするわけですが、その中にプルトニウム241があるわけではありません。なぜなら、逆行の人物に触れたからと言って、物体は逆行しないためです。このカーチェイスの中で、プルトニウムは回転扉を通っていないため、順行を続けます。では順行視点でどこにいったかというと、逆行主人公が運転するSAABの後部座席に放置されたままになります。
これを逆行視点で遡っていくと、港で主人公がSAABに乗って出発するシーンまで辿り着きます。確かに主人公はSAABに乗る際に後部座席を確認しており、ここからもプルトニウムがすでに逆行開始前に車の中にあったことが伺えます。
おそらくこのことに気づいた逆行セイターは、順行部隊に命令して、SAASの後部座席からプルトニウムを無事回収したのではないでしょうか?
なぜサイドミラーは元に戻ったのか
サイドミラーは逆行世界のセイターの手下が運転するAUDIによって破損させられます。逆行世界では、因果と結果が逆になるため、「衝突すると、サイドミラーが破損する」が「破損しているから、衝突する」という順番になります。
したがって、順行世界の主人公にとっては、BMWに乗った時点でサイドミラーはが破損しており、AUDIに衝突した時にもとに戻る、というわけです。
逆行弾に撃たれたキャットは、なぜ逆行世界に行ったのか?
まず、劇中でも描かれているように、順行中に負った傷は、逆行したからといってなくなるわけではありません。ただし、順行世界の過去の自分からは傷がなくなるので、時間を逆行すると、オリジナルのキャットの傷は撃たれた瞬間にもとに戻ります。(この時点で、順行のキャットと逆行のキャットが存在することを前提にしておくと、理解がしやすいかもしれません。)
そして、気になるキャットを逆行させて救った理由ですが、一般的に銃弾に撃たれると、心拍数が増加して失血が進んだり、傷口からの細菌感染が発生したり、腹腔内圧の変動が起こったりして、そういった要因が複合的に絡むことで死亡に至るようです。被弾直後に生きていても、その後死んでしまうのはそういった要因があるようです。
ここからは仮説ですが、逆行世界に行けば、空気が変わるため、これらの状況が発生しづらくなると考えました。つまり、複合的なリスクが低減し、あとはキャットの腹部にある銃槍を治療すれば良い、という状態になるわけです。依然として1週間程度を治療に要するため、主人公たちは1週間前のオスロまで逆行を続けることにした、と個人的には理解しています。
ちなみに逆行弾が通常の銃弾より危険なのは、銃槍の大きさにあると思っています。銃弾は先端が尖っており、そこから円錐形になっている構造です。通常撃たれると、円錐側の先端から身体が貫かれ、銃槍ができます。一方で逆行弾で撃たれると、銃弾の後端部分から身体が貫かれるため、銃槍が大きくなり、重症化しやすいのではないでしょうか。
逆行世界と順行世界で会話が噛み合わない理由
ブルールームとレッドルームで主人公とセイターが会話を繰り広げるシーンでは、声が微妙に遅れて聞こえており、会話が噛み合いません。これはなぜなのでしょうか?
おそらくこの部屋には、順行世界と逆行世界が会話をできるようする変声機があると推察されるのですが、これがまたややこしいのです。
・主人公視点での会話
⇒逆行セイターの発言は、先に順行語(聞き取れる)が聞こえて、その後変換された逆再音声が聞こえる
・逆行セイター視点での会話
⇒順行主人公の発言は、先に逆行語(聞きとれる)が聞こえて、その後順行語が聞こえる
さて、肝心の会話が噛み合わない理由ですが、主人公の発言を聞いた逆行セイターの発言は、逆行セイターにとっての未来、つまり主人公にとっての過去に聞こえることになるためです。
例えば順行世界の視点で
A「今日はいい天気ですね」
B「はい、そうですね」
A「今日はどこに行くんですか?」
B「タリンの旧市街に行きます」
という一見成り立っているような会話でも、逆行世界の視点では
B「タリンの旧市街に行きます」
A「今日はどこに行くんですか?」
B「はい、そうですね」
A「今日はいい天気ですね」
となり、会話が一個ずつずれる形になってしまうのです。会話の文脈を理解するためには、一旦会話を全て終えないといけないため、セイターが理解するのにも時間がかかり、結局答えを聞いていたにも関わらず、キャットを撃ってしまったのではないか?と考察しています。この辺りはぼくも不確かなので、もし別の仮説があったらぜひ教えて下さい!
ロケ地情報
さて、本メディアはエストニアの情報発信メディアですので、最後にこのシーンが撮影されたエストニアの高速道路について解説していきたいと思います。
Laagna Roadと称されるこの高速道路は、首都タリンに存在する片道3車線の幹線道路です。タリンの中心部と、Lasnamaeという人口密集地を結ぶ道路で、タリンの中でもかなり交通量が多いことで有名な道路となっています。
出典:Google Map
ただし、厳密に言うと、エストニアにはいわゆる日本的な「高速道路」は存在せず、Laagna Roadも一般道の延長線上にある無料の道路です。
TENETの撮影は、このLaagna Roadで2019年7月10日から21日までの期間に撮影されました。撮影はかなりタイトなスケジュールだったようで、結局3日間の追加撮影が実施されています。
エストニア国営メディアERRによると、撮影期間中は、完全にクローズされていたというわけではなく、朝夕のラッシュアワーは片側車線がオープンになっていたようです。ただし、10時〜3時30分までの時間は完全に封鎖され、撮影が敢行されました。
当時は「ふーん」ぐらいに思ってたけど、2019年の撮影当時、Tenetのためにタリンの幹線道路が2週間近く封鎖されるというニュース記事
片側車線を一時的に開放するなどして、朝夕のラッシュアワーを乗り切っていたんだとかhttps://t.co/QezvuM8nWq
— Alex@エストニアでチルに生きる🇪🇪 (@alex_eholic) September 20, 2020
撮影当時もタリンにいた筆者ですが、友達がエキストラとして出演していたり、ニュースに交通規制の情報が発信されていたり、と街はクリストファー・ノーランの撮影の話題がちらほらでていたことが記憶にあります。(ただし爆発的なフィーバーみたいなのはありませんでした。笑)
なお、撮影期間中は、道路が封鎖されて迷惑を被った周辺住民にマフィンが配られたようです。微笑ましいエピソードですね。(笑)
テネットの例のカーチェイスシーン。道路を封鎖して撮影するのは一般市民に迷惑をかけてしまうため、そのお詫びとしてマフィンが配られた話は永遠に語り継いでいきたいhttps://t.co/PWEiJ4FIxb pic.twitter.com/Q5MBPv5ORf
— 天沢まもる (@m_amsw) September 19, 2020
エストニア・ロケ地を巡るバーチャルツアーを開催
さて、今回紹介した高速道路以外にも、オペラ劇場、バーバラの研究所、ニールと主人公が会話をするホテルや道路、トラムなど、劇中でもエストニアが多く登場されています。
エストニアがこうやってハリウッド映画のロケ地として採用されるのは、この20年で初めてとのこと。ということで、エストニアのロケ地を廻るバーチャルツアーを開催します!
当日は、ライブ配信カメラを持って、筆者がロケ地をめぐりながらシーンの解説をする予定です。開催は未定ですが、10月下旬を予定。参加料は未定ですが、気軽に参加いただけるような金額で考えています。
ご関心がある方は以下のフォームから事前登録をお済ませください!(ツアーの開催が決まり次第、別途メールにてご案内を差し上げる形となります。事前登録をしたからといって直ちに参加料がかかるわけではありません)