バルトさんが見事国会議員に当選!
3月上旬、エストニアでは国政選挙が開催されました。世界唯一、電子投票を導入しているエストニアでは、今回の選挙でも投票者の約40%が電子上で投票したことが、日本でも話題になっています。また元大関のバルトさんが国会議員として大逆転選出されたことは、皆さんも耳にされていることでしょう。
せんじつ おこなわれた Estonia せんきょにて ねんがん の こっかいぎいん に なることが できました。
これからも よりいっそう Estonia と Japan の かけはし と なれるようこれからも ガンバルトー pic.twitter.com/M3VkzmhV5b
— 把瑠都 (@Baruto_official) 2019年3月17日
そんな歓喜の裏で、エストニア全体を揺るがすようなある論争が巻き起こっていることをご存知でしょうか。
野党が第一党に その裏で躍進した極右政党
今回の選挙では、これまで野党の第一党であった改革党が議席数34でトップに躍り出ました。
これまでの与党であった中央党は、議席数26と2位に甘んじた結果で、連立を組んでいた祖国党と社会民主党と合わせても議席数48と、過半数(51議席)に届きません。そのため、次期政権で従前の3党での連立は成立しない形となっています。
ここで特筆すべきは、保守人民党が議席数を12増やして19獲得したことです。
改革党 | 中央党 | 保守人民党 | 祖国党 | 社会民主党 | |
獲得議席数 | 34 | 26 | 19 | 12 | 10 |
前回からの増減 | +4 | -1 | +12 | -2 | -5 |
この保守人民党は、いわゆる極右政党。移民を排斥し、EUそのものにも反対、つまり、エストニア人の国益だけに集中すべき、という立場をとっています。アメリカファーストならぬ、エストニアファーストです。
大方の予想では、改革党が連立政権を組み、改革党の女性党首・カヤ・カラス氏が同国初の女性首相として選出され、エストニアは大統領・首相ともに女性という世界でも稀な国になるシナリオでした。
しかし、ここで問題となっているのが、これまでの与党・中央党、そして祖国党が、保守人民党を巻き込んだ連立政権を確立する動きをとる、と噂されている点にあります。現首相である中央党のユリ・ラタス氏が、その座を維持するために、全く政策方針の違う極右政党と組もうと試みている、というのが大方の見解です。
エストニアの状況がきな臭い。議席減の中央党(&祖国党)が,極右EKREとの連立話を詰めている。本案,選挙直後からEKREから出ていたものの,現実性は低いだろうとみていたし,中央党側も「話だけは聞くか」程度のスタンスと思いきや,具体的妥協案まで詰めかけている(1/5)https://t.co/TRzF5CHBzn
— Ryo Nakai (中井遼) (@rnakai88) 2019年3月17日
保身に走る首相 その動きに反発する起業家たち
これまで、エストニアはe-Residencyやスタートアップビザなど、外国人、そして外国企業を巻き込んで、世界からの信頼を勝ち得てきました。ぼくもエストニアに住む外国人としてその恩恵を受けている一人です。
加えて中央党はロシア系エストニア人からの支持が高い政党で、そんな彼らがエストニアファースト、つまりエストニア系エストニア人のための保守人民党と組もうとしていることが、更に混乱を招いている形です。
そんな動きに声を大にして反発しているのが、エストニアのスタートアップ界隈の起業家たち。エストニアを私物化しようとしている元首相を皮肉る #myestoniatoo の合言葉をもとに、現在SNSを中心に大規模な反対運動が巻き起こっています。選挙直後に開設されたFacebookページには、既に約2.5万人の”いいね!”が集まっており、その関心の高さが伺える次第です。
ムーブメントの一貫としては、
- ハッシュタグに #myestoniatoo(エストニア語で #kõigieesti)をつける
- 自分の意見をホワイトボードで表明・撮影して、白黒に加工して掲載する
- プロフィール画像を白い手書きのハートマーク入りのものにする
- TwitterやFacebook,Medium,Instagramなどで拡散する
- 特定の政党を支持するものではなく、政治的信条に反した行為をとろうとしている中央党に対する反対声明をあげている
と、電子国家らしいSNSを中心とした運動が広がっており、例えば、Robotexの元チェアマン・Sander Gensenは以下のようにツイートしています。
Being an estonian is a choice irrespective of the country of origin.#kõigieesti #общаяэстония #myestoniatoo
More info: https://t.co/CFSQdhpKnG pic.twitter.com/MBj7IvVWGg
— Sander Gansen (@sandergansen) 2019年3月17日
この他にも、様々なポストがSNSを賑わかせています。
In deep sorrow… ???? #myestoniatoo #kõigieesti pic.twitter.com/CLtGzEmNQZ
— Markus Schubert (@radioschubert) 2019年3月18日
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このようにエストニアはいま、国際感覚が豊かな若き起業家を中心に、大規模な反対運動がSNS上で起こっているのです。
IT産業はほんの一部でしかない、という事実
一方で、IT大国と言われるエストニアでも、GDPに占めるIT産業の割合は約6%。残りの94%はITと関係のない領域であり、数では圧倒的多数となっています。実際にあるエストニア人は、
「反EUを掲げている保守人民党を支持する人々は愚かだ。でも、そんな彼らが多数派なのも、エストニアの現状だ」
と悲観的ともとれるコメントしていました。
また別のエストニア人は、
「4年前の選挙でも、8年前の選挙でも、連立政権を巡る議論が全国で巻き起こった。今回だけが特別であるわけではなく、特段危惧もしていない」
と冷静なコメントをしています。
いずれにせよ今回の連立政権の動きは、数週間以内に決着がつくとのこと。
個人的には多くの若者がSNSで自分の政治的信条発信している点に、エストニア国民の当事者意識を感じました。エストニアに住む外国人として他人事ではないので、引き続きウォッチしていきたいと思います。
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