2014年12月にローンチされたe-Residency。
2019年時点で世界の登録者は40,000人を超え、日本からも約2,000人のe-Resident(電子国民)が誕生しています。安倍首相もe-Residentの1人として登録を受けていることは有名です。
一方で日本人の多くが、まだまだe-Residencyのメリットやデメリットを本当の意味で理解せず、とりあえず取得している方が多いかと思います。
今回、現地エストニア在住者の視点から、2019年最新版のe-Residency事情を大解説し、取得のメリット・デメリットや、どんな人がe-Residencyを取得するべきなのか、解説していきたいと思います。
そもそもe-Residencyとは
e-Residencyは、エストニア政府の電子プラットフォームを自国民のみならず、外国人向けに開放したプログラムです。意外に思われるかもしれませんが、エストニア政府自身は、e-Residencyのために何か新しい技術を開発した訳ではありません。
自国に元々存在していた技術を、そのまま外国人に開放しただけのことなのです。ただし、この大胆な政策を取れるのもエストニア共和国の強みだと思っています。
ではe-Residencyを取得し、e-Residentになると、どんな恩恵を受けることができるのでしょうか?解説していきたいと思います。
e-Residencyでできること
法人設立
現地法人を国内にいながら設立することができます。LeapINや1Officeなどの起業支援サービスを使用することで、20~30分で法人登記することが可能です。
資本金は2,500ユーロ(約32.5万円)必要になりますが、登記の際に必須ではないので、手軽に法人を設立することができます。
※2019年4月追記
筆者Alexは、e-Residencyを通した法人登記・事業運営を支援するSetGoを立ち上げました。日本語対応のサービスで、エストニアにおける法人登記や、税務・会計・法務などのコンサルティングサービスを提供します。現在先行会員募集中です!
口座開設
EU市場にアクセス可能なビジネス口座を開設することが可能です。ただし、一部の金融機関では、Face to Face(対面)の面談を要求することがあり、必ずしも遠隔で開設できるとは限りません。
※2019年追記
2019年からエストニアの金融機関以外でも、ユーロ圏の金融機関であればエストニア法人のビジネス口座として認められるようになりました。エストニアの銀行口座開設のための条件は年々厳しくなっており、「法人を登記できても、銀行口座を開設できない」という矛盾状態が解消された形になります。
とはいえ、日本人にとってユーロ圏の銀行口座を開設するのはまだまだハードルが高いもの。現段階では、上でご紹介したような法人登記サービスのアドバイスに従って銀行口座を開設した方が良さそうですね。
電子署名
エストニア政府の提供するソフトウェアで、電子署名を行うことが可能になります。契約書の締結に際して国際郵便等で書類をやり取りする必要が無くなり、ビジネスのスピードが増します。エストニアに登記した法人同士で、迅速にNDAやMOUなどが締結することができるのは良いですね。
e-Residencyでできないこと
移住/ビザ取得
e-Residency制度は、あくまでもエストニア政府のデジタルプラットフォームの一部を利用できるサービスです。取得したからといって、実際に移住権やビザを取得できる訳ではありません。
ただし、これとは別にエストニアにはスタートアップビザというプログラムがあります。詳しくは以下の記事に書いてありますので、気になる方は是非見てみてくださいね。
電子投票
エストニアでは国政選挙の際、e-IDカードで電子投票が可能ですが、e-Residentはこの限りではありません。エストニアの選挙で投票するためには、現地での永住許可を取得する必要があります。
公共交通機関の無料利用
現在エストニア国民は公共交通機関を基本的に無料ですが、e-Residentは対象外です。ただ、今後プログラムのアップデートで利用できるようになる可能性もあります。
よく勘違いする人がいるのですが、e-Residencyでエストニアに移住することはできません!エストニアはEU加盟国だから、ビザの発給基準もEUに従う必要があるんです。ちなみにAlexは就業ビザ(D-Visa)を雇用主から発給してもらってます!
e-Residency取得のメリット
それではe-Residencyを取得するとどんなメリットがあるのでしょうか。整理していきましょう。
- 法人の設立費、維持費が安価 (登記費は€190 = 約24,700円)
- 法人税(20%) は配当する際に発生 ※内部留保している限り課税されない
- 会社をリモートで経営できる
- 書類の電子署名、暗号化による取引の迅速化
- EU市場でビジネスが展開しやすくなる
- e-Residencyの情報が入ってきやすくなる
e-Residency取得のデメリット
e-Residencyの取得、そしてエストニア法人の設立に際して発生するデメリットは以下の通りです。
- 税申告は居住国のルールに従う必要があるため、煩雑になる
日本の場合は二重租税防止のための条約が結ばれているため、その内容を理解する必要がある - エストニアの法制度に定められた申告をする必要があり、必要に応じて日本には無い税関係の手続きを行う義務がある(月次報告書など)
- 日本人がクライアントである場合、エストニアの銀行口座に国際送金してもらう必要がある(送金サービス等を使えばその限りではない)
- 登記支援サービスを利用すると、法人維持費がかかる(LeapINだと最低約49EUR~/月)
こんな人にオススメ
EU市場でビジネスを展開したい人
ど直球ですが、エストニアはEUに属している国なので、エストニアの法人さえ設立してしまえば、EU内では比較的自由にビジネスを展開することができます。日本にいながらEU圏でビジネスをできるのは、e-Residencyの最大のメリットの一つといっても過言ではないでしょう。
今後エストニアに移住することを考えている人
e-Residencyはビザとは異なることは上述した通りですが、エストニアへの移住を検討している人は持っておくと何かと便利です。ぼくもアパートの賃貸契約や、雇用契約など、必要な契約は全て電子署名しました。簡単に出力できる電子署名の証明書を付けると、ビザの申請等にも公式書類として提出することができるので、煩わしい書類手続きを効率化するためにも、オススメです。
なお、現地でビザ(Temporary Residence Permit)を取得すると、e-Residencyは自動的に失効し、Temporary Residence Permitが同様の機能・IDを引き継ぐ形になります。
企業の看板が欲しいフリーランス
日本企業の中では、「企業だったら相手にするけど、フリーランスはね~」という方もまだまだ多いもの。そんな時に、日本より手軽に起業でき、かつ会社の看板を持つことができるe-Residencyはメリットになり得ます。ただし、上述したように会計処理が面倒になるので気をつけてくださいね。
飲み会のネタが欲しい人
「おれエストニアの電子国民なんだよね~。ほら、これがe-Residencyカードなんだけど~」と飲み会のネタになること間違いなし!
ただIT界隈で無いと、そもそもe-Residency制度を知らない方もいらっしゃるのでご注意を。そんな時は、この記事で学んだことをドヤ顔で披露してください。
※2019年追記
e-Residencyカードのデザインが刷新され、従来の水色から青を中心としたデザインへと様変わりしました。旧バージョンのe-Residencyカードを持っている方は逆に貴重かも…?
こんな人は取らないほうが良い!
英語を理解しようとしない人
厳しいことを言うようですが、英語を理解しようとしない人に、e-Residencyの活用は難しいと思います。基本的に申請手続きなどは全部英語ですし、活用をする上でも英語が基本のプラットフォームになります。
ただし今はテクノロジーの時代。Google翻訳にかければ、大体のことは何とか理解することができます。したがって、自分でリサーチすらせず、「英語が分からないのですが~」と不必要に質問する人は、取るべきではないと思います。
日本のみをターゲットにしている経営者
e-Residencyを通した起業は、EUでビジネスを行うからこそメリットがあります。
既に日本で法人をお持ちで、かつ今後も海外に進出する予定が無いのであれば、わざわざe-Residencyを取得する必要もないでしょう。
租税回避を狙っている人
e-Residencyチーム自身も発表している通り、e-Residencyは租税回避のための手段ではありません。
最近だと日本とエストニア共和国の間に二重租税の回避条約が締結されました。2019年から有効になるということで、より二国間の課税システムが明確になることが期待されます。e-Residentだからと言って必ずしもエストニアに納税義務がある/日本に納税義務が無いわけではないので、事前に税理士さんと相談することをおすすめします。
今後の展開
現在のe-ResidencyはBeta版
e-Residencyチームのメンバーは、e-Residencyを「Beta版」と表現しています。
世界初の電子国民制度としてリリースされたe-Residencyは、トライアンドエラーを繰り返しながら、そのコンテンツをアップデートしていくことを方針に据えています。現在でも、金融機関との提携強化や、e-Residentにも国民と同様に公共交通機関を無料にする施策の検討などを続けています。 実際にe-Residencyチームが運営しているFacebookページでは、常に新しいサービスに対するディスカッションが行われており、ユーザーの声を拾い続けている様子が伺えます。
各国が電子国民制度をリリースか
また、今後各国が電子国民制度をリリースすることも考えられます。
e-Residencyは、自国の電子行政サービスを外国人に対して提供しているだけなので、電子行政の基盤が整っている国であれば、ポリシーを変更するだけで導入が可能です。エストニアの成功体験に続くべく、現在でも世界各国が電子国民制度の導入を検討しています。第2、第3のe-Residency制度導入国家が登場するに連れて、今後競争は加速し、ユーザーにとってより魅力的な電子国民制度が誕生することが期待されます。
どちらにせよ今後、より盛り上がっていくことは間違いないでしょう。
e-Residency2.0構想を発表
エストニアのカリユライド大統領は、電子国民プログラムの次なる構想”e-Residency2.0”のホワイトペーパーを2018年12月に発表しました。各領域の専門家と協働し、今後の活動に関する49の指針を新たに定めた形です。
詳しくはこちらの記事で解説しています。
申請方法
これはぼくが改めて解説する必要はないでしょう。
e-Residency日本オフィシャルパートナーのEstlynx社や、エストニア事情に精通している千葉氏のブログが参考になると思います。
一点注意事項として、e-Residencyの引き渡しには、対面での受取が必要です。日本では東京にあるエストニア大使館で面談をすることになるのですが、急激な需要増に伴って、最大約3ヶ月掛かるとのことです。(通常は約1ヶ月で受領することができるとのこと)
※2019年4月追記
e-Residencyのピックアップセンターが東京に開設されました。従来の大使館から移管され、今後東京での受取はすべてこちらで行うこととなります。それに伴い、申請から受取までの期間短縮が期待できる形です。詳しくは以下の記事をご覧ください!
裏技なのですが、e-Residencyの取得場所を東京ではなくタリンにすると、約3週間で受領することができます。タリンにも複数のピックアップポイントがありますが、Tammsaareであれば市街地からも比較的近く、受領しやすいです。
近々エストニアへの旅を計画している方にオススメ!
電子国民、なってみませんか?
今回は世界的に注目が集まるe-Residencyの最新情報をまとめてみました。
e-Residency周りは頻繁にアップデートがあるので、今後も引き続き更新していこうと思います。気になる方はぜひ取得してみてください!
お知らせ
現在、e-Residencyと連携したサービスSetGoを開発中です。オンラインで完結する法人登記や、エストニアローカルのサービスを利用できるマーケットプレイスなどを英語のみならず、日本語でも提供します。現在先行ユーザーを募集中ですので、ぜひ以下のリンクからご登録ください!
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